【読書レポート6冊目】ナナメの夕暮れ(若林正恭著)

出典:amazon
彷徨うシカ
彷徨うシカ

一流のお笑い芸人オードリー若林の一流コラムです。人生に彷徨う方に寄り添ってくれる作品です。

完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込」という著書から3年分に執筆したエッセイ集になります。

恥ずかしながらこれまでオードリー若林(以下若様)の著書は読んだことが無く、お笑い論とか書かれているのかなと読み始めました。


読んでみて驚きました。

多彩な表現と喩え、読み進めても苦にならない文章力。

そんじゃそこらのタレントが書く浅い文章とは一線を画します。

褒め称えてもどうなるというわけではありませんが、お笑い芸人としてMCを担う人間が書く文章として大変に楽しませてもらいました。

概要

本書概要
タイトル:ナナメの夕暮れ
著者:若林 正恭
販売:文藝春秋
発売日:2018年8月30日

若林/正恭
1978年9月20日、東京生まれ。春日俊彰とお笑いコンビ・ナイスミドルを結成。その後、オードリーと改名する。ツッコミ担当。バラエティを中心に、テレビ、ラジオなど活躍の場を広げる。はじめてのエッセイ集『社会人大学人見知り学部卒業見込』がベストセラーに。2018年、キューバへの紀行エッセイ集『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』で斎藤茂太賞を受賞

出典:Amazon「Book 著者紹介情報より」

オードリー若林、待望の新エッセイ集!
『完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込』から3年。
雑誌「ダ・ヴィンチ」での連載に、大幅に書き下ろしエッセイを加えた、「自分探し」完結編!

ゴルフに興じるおっさんなどクソだと決めつけていた。
恥ずかしくてスタバで「グランデ」が頼めない。
そんな自意識に振り回されて「生きてて全然楽しめない地獄」にいた若林だが、四十を手前にして変化が訪れる――。

ゴルフが楽しくなり、気の合う異性と出会い、あまり悩まなくなる。
だがそれは、モチベーションの低下にもつながっていて……

「おじさん」になった若林が、自分と、社会と向き合い、辿り着いた先は。

キューバへの旅行エッセイ『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』では第三回斎藤茂太賞を受賞。
「生き辛い」と感じている全ての人に送ります。

出典:Amazon 「商品紹介」より

以下、ネタバレ含みます。

つらつらと感想を書いていきます。

生き辛さとは

若様はよくバカリズムや自分のことをネガティブ人間、こっち側の人間といってポジティブ側と分けています。

テレビで観ていたときはネタとしてそうしているのはわかりましたが、楽観主義である私からは理解できない部分がありました。

世の中がすべて否定的に見えて、他人からの評価をすべてネガティブに捉えてしまうということです。

彷徨うシカ
彷徨うシカ

ここまで赤裸々に、かつ言語化してネガティブ思考の人の生き辛さを表現した文章があったでしょうか。

導くフクロウ
導くフクロウ

単純に読む量が少ないだけじゃろ。


若様は自分のことを”めんどくさい人間“と表現していました。

  • 学校で第一ボタンをなぜしめなければいけないのか。
  • なぜ社会に出てスーツを着るとネクタイを締めなければいけないのか。
  • 飲み会に参加しなければいけないのか。


誰しもがみな疑問に思ったことがあっても、いつの間にか常識だからといって受け入れてしまっているコトがあると思います。

それが常に頭の中にあり、受け入れられない状態ながらも社会を生きている状態だと読めました。

本書の中で片頭痛があることを途中に記しているのですが、それも自然だなと感じました。

常に頭の中で他人の評価を気にして、周囲が求める常識を押し付けられながらも頭の中ではずっと疑問がグルグル回っている

私も他人の評価が気になりますが、楽観的に捉えていたりどうしようもないと考えることを放棄していることが多々あります。

それはそれで思考が浅かったり、何にも考えていないのだと落ち込むこともあるのですが、一方頭の中で常に戦っている状態というのはきついのだと想像つきます。(安易に分かるとは言いません。)


そんな中本書は若様の中にある葛藤や疑問、生き辛さを真正面に書いてあります。

本書を同じように生き辛く生きている方が読むことで救われることがどれほどあるのでしょうか。

また、ポジティブ人間が本書を読むことでどれだけ相互理解につながるのでしょうか。

彷徨うシカ
彷徨うシカ

ホントにポジティブかつ楽観的な人は本書を読んでも共感せず、何言ってんだよくらいの評価にしかならないんですかね?

本書を多くの方が手に取り世界中の人が少しでも生き辛くない世の中になることを切に願っています。

正義(自分の主張)をふりかざす人

筆者は「自分の主張・正義」を強要してくる人が苦手だと書いていました。

「こういう生き方をしなくてはダメ。」だと押し付けられるのは苦手だ。「なぜそういう生き方をした方がいいのですか?」と聞くと、「お前のためを思って」と言う。そういう人は「~のためを思って」という大義を隠れ蓑にして、自分より立場の弱い者から自分の生き方を肯定する言葉をカツアゲしようとする。

出典:「ナナメの夕暮れ」

結局は自分のためじゃないかと。

ものの捉え方はいろいろあるなと考えさせられます。

相談してもいないのにアドバイスをしてくる人を「肯定する言葉をカツアゲしようとする。」と表現したのは秀逸ですよね。

自分がそのようにならないようにと考えるとともに、そのような場面になったときに「ああ、この人はカツアゲしにきているな」と俯瞰的にとらえられて心に余裕が持てるような気がします。


この肯定のカツアゲについて、正義という言葉を使って別の章でも喩えていました。

正義や自分の考えというのは財布に忍ばせておくコンドームのようなものであって、見せびらかして押し付けるものではないと。

いざというときのために持っておくべきではあるが、オープンにするものではないと。

この喩えをみたときに、ほかの本で書いてあるような正義をふりかざすなーという文言よりもストンと理解できました。

秀逸な喩えができる人はすごいですよね。

会いたい人に会えないという絶対的事実

筆者のお父様が無くなられたとき、「会いたい人に会えないという絶対的事実」に気づいたとのことです。

これを実感的に理解し体感したことで誰かに会うことの本質的な価値に気づけたと。

会いたい人に会えない。なので会う人には素晴らしい価値がある。

合いたい人に会っていくべきと。


喪失から得たものがあるというのは多々あることですが、やはり本質的に筆者のやさしさがあふれる文章になっておりました。

陳腐で月並みな文章かもしれませんが、人に感謝して生きていくべきということでしょう。

若様的には合わない人には合わないと割り切っているのでしょうが。。。

オードリーの漫才変化

オードリーの漫才をすべて観ているわけではありませんが、漫才構成が変わったなと感じたことがあります。

イタコのネタとパチンコのネタです。

本当は違うかもしれませんが、アドリブというか「遊び」の部分が本当に増えたなと。

中川家の漫才ででてくるアドリブのようにほんとうに強い漫才になったと感じました。

これまでの漫才ではルートが決まって、稽古を何回も行わなければいけないネタ。

今回はある程度設定を決めて遊びをもって漫才を進めている。

自力が上がったと言えるかもしれませんが、雰囲気が変わったと感じさせられました。

自己啓発本へのアンチテーゼ

この世には様々な自己啓発本が存在します。

「こうしたほうがいい。」「こうしなければならない。」

「ポジティブであるべき。」「マナーとして第一ボタンを締めるべき」


巷にあふれるポジティブ人間の正論は届く人には届くが、逆に苦痛になることもあるのだなと納得しました。

世間では何かしらの「力」が強い人の言葉が正義としてもてはやされ、マイノリティーの言葉が弱くなりがちです。

本書はその正論をふりかざす自己啓発本たちへのアンチテーゼになるのではないでしょうか。

正論・常識をふりかざすのではなく、誰かに寄り添うエッセイ。

あまり興味なかったですが、新たな視点が開いた気分です。

最後に

冒頭でも書きましたが、本書は初め若様のお笑い的思考を知りたいと読み始めました。

ですが読み終えてみれば、様々な視点から世間を俯瞰・観察し自問自答を繰り返す筆者の深い洞察力に感嘆し、納得するという結果となりました。

自己啓発本が好きな方が他分野の人の思考を理解するためにも機能する良書でもあると思いますし、何よりネガティブな思考を常に持っており生き辛いと感じている人間に自然と寄り添うやすらぎのような本でもあると感じます。

ぜひいろんな方に読んでほしい作品ですね。

Amazonリンク


では最後に本記事を五七五でまとめたいと思います。

正論は

財布にしまえ

いざのため

印象に残ったコンドームのところを抜粋してみました。

以上です。

本記事を最後までお読みいただきありがとうございました。

他のまとめ五七五は以下にまとめていますよ。

記事:これまでのまとめ五七五

ではでは。