【映画レポート3本目】樹木希林氏の遺作「日日是好日」は無伝の茶道を描いた名作


こんにちは。シカです。2018年のヒット映画である「日日是好日」を観てみました。
樹木希林氏の遺作としても有名じゃ。素晴らしい作品じゃよ。

目次
概要
- タイトル:日日是好日(にちにちこれこうじつ)
- 監督:大森立嗣
- 出演:黒木華、樹木希林、多部未華子、鶴田真由、鶴見辰吾
- 原作:森下典子「日々是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ」
- 公開:2018年10月
- 興行収入:12.8億円(出典:一般社団法人 日本映画製作者連盟「2018年興行収入10億円以上番組」)
- 賞:第43回報知映画賞 助演女優賞(樹木希林)、監督賞
:第42回日本アカデミー賞 優秀主演女優賞(黒木華)、優秀助演女優賞(樹木希林)

本作は原作である森下典子氏が数十年続けてきた「お茶」を通じて気づいた人生の気づきを演技力がすばらしい黒木華氏と樹木希林氏の夢の共演によって鮮やかに描かれた名作じゃ。
あらすじは以下のとおりです。
真面目で、理屈っぽくて、おっちょこちょいの典子は、いとこの美智子とともに「タダモノじゃない」と噂の武田先生のもとで“お茶”を習う事になった。挨拶も程々に稽古をはじめるが、意味も理由もわからない所作にただ戸惑うふたり。「お茶はまず『形』から。先に『形』を作っておいて、後から『心』が入るものなの。」と武田先生は言うが…。エッセイスト森下典子原作のロングセラー・エッセイを映画化!
「oricon」データベースより
お茶は「無伝(無傳)」といわれ、昔から茶道家に伝わる言葉だそうで「言葉にして伝わるものではない」「真髄を教わるものではない」という意味があるようです。
今まで茶道とかよくわからないと思っていましたが、本作を観て「瞑想」にも似た一種の大事な気づきを教えていただきました。
詳しくはこれからみていきましょう。
※次章からネタバレを含みます。
あらすじ
主なあらすじだけをまとめてみます。
詳細はぜひとも映画をみてください。心を無にして映像と音を五感で感じてみると本作の良さにさらに気づけると思います。
(1)20歳の夏にお茶を習う
- 女子大生の典子(黒木華)と従姉妹の美智子(多部未華子)が武田先生(樹木希林)の茶道教室に通いはじめる
- はじめは形だけとりあえず身に着けるように指導される。
”お茶はまず形から。そこでできた入れ物に心を入れるもの” - 夏の型はある程度と覚えたころに楽しさを感じる
- 冬の型ではまた違うことに萎える
(2)大学卒業をする
- 典子(黒木華)は出版社に就職したかったができずアルバイト
- 美智子(多部未華子)は商社に就職
- 互いに茶道はやりつづける
- 徐々に茶道から気づきを得る
“お湯の音はトロトロで、冷たい水の音はきらきら“
(3)3年後
- 美智子(多部未華子)は結婚して田舎に帰る
- 典子(黒木華)は一人暮らしでフリーライター
- 茶道教室では古株になるが武田先生(樹木希林)に工夫が無いといわれる
- 結婚を前提にしていた典子(黒木華)だったが、相手の裏切りで結婚できず
- 父親が病に倒れ亡くなる
(4)数十年後
- 典子(黒木華)と武田先生(樹木希林)は互いに老いながらも茶道を続けている
- 日日是好日の意味を知る
“雨の日は雨を聞く。雪の日は雪を見て、夏には夏の暑さを。冬は身の切れるような寒さを、五感を使って、全身で、その瞬間を味わう。“
以上です。
樹木希林氏と黒木華氏の演技力に脱帽
本作はなんといっても樹木希林氏と黒木華氏の演技力に触れずにはいられません。
アクションもなく事件的な出来事が起こるわけではない茶道と一人の人生を二人の演技と美しい映像・音楽さらには共演者たちによってしっかりと描かれたことによってなんとも美しく考えさせられる作品になっています。
一番重要な茶道のシーンは樹木希林氏が圧巻です。
何年も茶道を続けてきた先生からも「これまで茶道をやられていたのですか?」と聞かれるほど違和感無く演じていたそうです。
きれいなお辞儀・お湯を注ぐ手つき・歩き方・身体の動かし方まで繊細かつなめらかであり、自然な動きをしているのです。
意味のある動きなのかと疑問に思う動きも多々あるのですが、そこに型があることで美しくもあり工夫や心が入るのだと思います。
様式美とは言いますが、本当に美しい所作が多かったです。

樹木希林氏は本作のために1年以上もの歳月を本作に注いでいたらしいの。
それは黒木華氏が演じる典子も同様です。
茶道の所作もさることながら無垢な大学生のころから歳老いるところを本人が演じていたが違和感無く、映像に集中できるほどの姿でした。
結婚を前提にしていた彼氏に裏切られ慟哭するシーンや、父親の死というショッキングなシーンでもしっくりと演技していました。
さすがの最優秀主演女優賞だな思わされました。
詳しいところはぜひ映画を観て感じとってみてください。
印象に残った言葉
次に印象に残った言葉を書いていきたいと思います。
- 日日是好日
- 世の中には「すぐわかるもの」と「すぐわからないもの」の2種類がある
- 雨の日は雨を聞く。雪の日は雪を見て、夏には夏の暑さを。冬は身の切れるような寒さを、五感を使って、全身で、その瞬間を味わう。
- 私、最近思うんですよ。こうして毎年、同じことができること幸せなんだって。
日日是好日
映画タイトルにもなっている言葉です。
「にちにち これ こうじつ」と読みます。
これは大禅匠でもある雲門文偃(うんもん ぶんえん)禅師の言葉になります。
映画の中では冒頭の頃に典子(黒木華)と美智子(多部未華子)が「日々良い日ってことじゃないの?」と言っています。
私もそのように捉えていましたが、お茶を通して四季折々の映像や天気、音をしっかりと描いていくことで違う意味にも気づくのです。
四季折々の音や映像を五感を使って「今」を生き、ただひたすらありのままに生きればすべてが「好日」だということです。
住職さんの解説も分かりやすかったので次に引用します。
好日の好は好悪(こうお)の好ではありません。「嵐か、よし、嵐なにするものぞ!」、「失ってしまったか、よし、どうにかこれを改善しよう!」と、積極的に生きる決意 “よし” がこの “好” なのです。
達磨寺(副住職・広瀬大輔記)
現代社会のひとたちは私も含めて「今」に生きず、携帯を通じて「過去」や「未来」、「仮想の世界」に生きていることが多々あります。
目の前の映像やにおい、音、食事にもっと真剣に向き合って「今」を生きることをしていかなければと思わされました。
世の中には「すぐわかるもの」と「すぐわからないもの」の2種類がある
この言葉は典子(黒木華)が冒頭の頃に話す言葉です。
「すぐわからないもの」の中に茶道や日日是好日という言葉があるのだと思います。
作法が残っているものや伝統芸能、芸術などは「すぐわからないもの」になるのでしょうか。
この「すぐわからないもの」は長年ゆっくりやり続けることで「頭でわかる」だけではなく、「身体でもわかる」ということになるのだと思います。

習うより慣れよというのもそうじゃな。続けてわかることもあるの。
雨の日は雨を聞く。(略)
物語終盤に日本の四季折々の映像美とともに語られたものです。
父の死や武田先生の師匠の死の話を踏まえた上で日々を生きていく中でのセリフです。
日日是好日という言葉で書いたように「今」をしっかりとらえることの重要性を感じさせてくれる「爽快感」のある名言ですね。
この言葉を聞いたときにほんとうにさわやかな風とともに鳥肌が立ちました。
私の好きな「風の谷のナウシカ」でも似たような言葉があります。
土に根をおろし 風と共に生きよう 種とともに冬を越え 鳥とともに春を歌おう
風の谷のナウシカより
「今」を生きることがすべて自然の中で暮らせというわけではありませんが、しっかり身体と世界を五感を通して繋げあう「マインドフルネス」のようなことをたまには意識して生活していきたいですね。
私、最近思うんですよ。こうして毎年、同じことができること幸せなんだって。
最後に武田先生(樹木希林)が言う言葉ですね。
今できることの幸せをしっかり噛みしめることができる本当にすばらしい言葉です。
頭ではわかっているのですが身体で「わかる」ということになるまで「今」を生きていきたいと思います。
まとめ
いろいろと考えさせられる作品でした。
最後にまとめ五七五を詠みたいと思います。
今生きる
五感を通じて
これ好い日
彷徨うシカ
他のまとめ五七五は以下にまとめていますよ。
記事:これまでのまとめ五七五
ではでは。