イギリス行政への風刺映画「わたしは、ダニエルブレイク」

数々の賞を受賞した「わたしは、ダニエルブレイク」という映画を観ました。
巨匠ケン・ローチが描くヒューマンドラマの名作じゃな。

Amazonプライムで高い評価を得ていました本作は、文部科学省特別選定作品としても選ばれており日本含めて世界的に評価されている作品です。
目次
概要
監督:ケン・ローチ
出演:デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ
公開:2016年10月21日
放映時間:100分
興行収入:$15,793,050(出典:that’s movie talkより)
賞:第69回カンヌ国際映画祭
:パルムドール(最高賞)

ケン・ローチ監督は2006年にも「麦の穂をゆらす風」という作品でパルムドールを獲得しているぞ。
内容は次のとおりです。
ダニエルが教えてくれたこと-
出典:Amazon内容紹介より
隣の誰かを助けるだけで、人生は変えられる
イギリス北東部ニューカッスルで大工として働く59歳のダニエル・ブレイクは、心臓の病を患い医者から仕事を止められる。国の援助を受けようとするが、複雑な制度が立ちふさがり必要な援助を受けることが出来ない。悪戦苦闘するダニエルだったが、シングルマザーのケイティと二人の子供の家族を助けたことから、交流が生まれる。貧しいなかでも、寄り添い合い絆を深めていくダニエルとケイティたち。しかし、厳しい現実が彼らを次第に追いつめていく。
それではあらすじをみていきましょう。
※次章からネタバレを含みます。
あらすじ

本映画のあらすじを簡単にまとめていきたいと思います。
申請手続きが不親切極まりない
- 大工のダニエル・ブレイク(デイヴ・ジョーンズ)は心臓病が見つかる
- 大工の仕事を休業したため国の支援申請を行うが、受給資格なしという結果
- 不服申し立てをしようとするが、それすらも国の認定人から電話連絡がないと手続きがすすまない
- どうしようもないので次に求職者手当の申請をしようとするが、就労可能でなければ支援手当の審査をすべきと拒否される
- あらためて不服申し立ての申請をしようとするがオンラインでなければ手続きできないと言われてしまう
3人の親子との出会い
- ロンドンから引っ越してきたばかりのケイティ・モーガン(ヘイリー・スクワイアーズ)は遅刻しただけで給付金の申請手続きができないと拒否される
- ダニエルはそれに憤怒して助けようとするが行政職員から追い出される
- ダニエルはケイティたち親子と食事をして現状を知り助けようとする
- ダニエルはトイレタンクの修理、電気設備関係の修理や子供のお守りを自らかってでる
- ダニエル自身も不服申し立てをオンラインで行おうとするが、パソコンが苦手でまったく申請ができない
- 一方で職業安定所にて仕方なく求職者支援の申請をしようとするが履歴書が必要だと言われ苛立つ
- 求職者支援を受けるために履歴書を何人かに配る
- 3人の親子とダニエルは食事やプレゼントをおくることでささやかに交流を深める
限界が近づく
- ケイティと二人の子供をつれてダニエルはフードバンク(食料を配給するところ)に向かう
- ケイティは空腹のあまりその場で缶詰を開けて食べてしまい、自分のしたことにショックをうける
- ダニエルは国の認定人から電話で支援手続きは就労可能なため認められないと言われる
- 履歴書を配っていた園芸センターから面接依頼があったが仕事ができないことを伝える
- ケイティはスーパーで万引きをしてしまう
- 職業安定所にて履歴書を見せるが内容に不備があるとして4週間の違反審査があると言われる
- ダニエルはお金が無くなりはじめ、家財を処分する
- ケイティは娘から貧乏なため学校でいじめをうけていると聞かせれる
- ケイティは娘と寝ながらどうにかすると誓う
- ケイティはお金のために売春を始める
- ダニエルはそれに気づき、なんとかしてケイティと会うがもう会わないでと言われる
尊厳は失わない
- ダニエルは職業安定所で求職手当をあきらめることを決意する
- 職業安定所の壁に「わたしはダニエル・ブレイク」と書く
- 野次馬の人々はダニエルを拍手でほめたたえる
- ダニエルはケイティに付き添われて不服申し立ての手続きをしようとする
- 手続き途中でトイレに向かい心臓発作でダニエルは亡くなってしまう
- ケイティらが葬儀に参列し、ダニエルが不服申し立てのために用意した文章を読み上げて物語は終わる
以上です。
淡々と行政手続きの現状を描いた作品です。
このあとは私が本作をみて感じたことを書いていきたいと思います。
行政手続きのたらいまわし

本作品のダニエルは3つの申請手続きの煩雑さ、不親切さに戸惑います。
これはダニエルのかかりつけの医者も認めています。
しかし、行政は「就労可能」として支援手続きを認めません。
ダニエルが「医者が言っている」といっても次は「不服申し立てをしろ」と行政は言います。
どうやるのか聞いても「オンラインでみろ」と行政の担当者は言います。
まさに「たらい回し」です。
こちらも手続きに意味を見出せないダニエル。
・履歴書を書くための講義を受講することが必須
・就労できないのに履歴書を配らなければいけない
・履歴書の内容に不備があると4週間の違反審査
・面接を希望してくれた人も裏切って断らないといけない
・電話では申請方法は伝えられずオンラインを見ろと言われる
・ダニエルはインターネットができないため悪戦苦闘する
・3度チャレンジしてやっと準備が整う
本映画の舞台はイギリスですが、日本でも同じような光景をみるような気がします。
オンライン化に伴いインターネットで手続きがすべてできるようになるのは使える人は便利ですが、使えない人にとってはまったく便利ではありません。
すべて同じ部署でできればいいのに、似たような手続きを違う部署でしなければならないことなども多々あります。
すべての人に対してケアできるようなシステムができればよいですが、それをつくることは大変だったりします。
そんな溝を埋めるのが人の心配りだったり、親切な心で融通をきかせることだったりするのかなと思います。
本映画では、行政職員でもダニエルに気をつかってくれた人やケイティ家族、隣の友人や元職場の人々がダニエルに寄り添っていました。
それでも行政手続きで自分の尊厳を踏みにじられ、せっかくの面接依頼という人の好意も拒絶しなければいけない制度を活用しなければいけないのであれば申請手続きをやらないとダニエルは拒絶します。
ここには生活や家族のために売春をするという覚悟を決めていたケイティを見ていたことも、ダニエルが決意する要因になったのでしょう。
そんな制度をつくった人々への憤りがタイトルの伏線を回収するメッセージとなるのかと思います。
タイトルの意味
本映画のタイトルの意味は物語終盤でわかります。
行政手続きへの憤りを施設にメッセージをスプレーすることでぶつけるシーンです。
I , Daniel Blake.
「私は、ダニエル・ブレイク」と職業安定所の施設の壁にスプレーで落書きをします。
他のだれでも、犬でも、動物でもなく「ダニエル・ブレイク」であると主張します。
このシーンで行政に対する不満をストレートに表現したことで野次馬たちも拍手で彼を称えます。
みんな不満に思っているが口に出せないことを表現してくれたからでしょう。
このシーンをケン・ローチ監督は描き社会への不満を、静かなる怒りを、変わってほしいという願いを込めて描いたのでしょう。
しっかり税金も長年納めて社会に貢献してきたというのに、病気になってから国の助けはまったく受けられない。
これでは国の信用を揺らぐというもの。
制度を設けていると言われても使えなければ意味がありません。
本映画でダニエルは電気や電話を止められてしまい部屋で凍えていましたが、ケイティの娘が部屋に訪問してくれます。
「ダニエルは助けてくれたでしょう。だから助けさせて。」と。
お互い苦しいながらも助け合いの中で生きています。
ケイティをダニエルが救ったように反対にダニエルも救われるのです。
キャッチコピーの重要性

映画の日本でのキャッチコピーは「人生は変えられる。隣の誰かを助けるだけで。」というものでした。
正直これはいかがなものかと思いました。
物語の主題に合っていないキャッチコピーです。
隣の誰かを助けただけで「ありがとう」じゃああなたに返してあげるといって人生が劇的に変わるような簡単な物語ではありません。
社会の制度に見捨てられながらもなんとか人間の尊厳を考えながら、助け合いながら生きている人々を描いています。
ケン・ローチ監督はもちろん助け合うことが重要だというメッセージも含めていたと思いますが、何よりも社会への風刺が一番です。
このような人々をリアルに忠実に描いて人々にどうすべきなのか強く訴えています。
それを文部科学省が推薦して道徳的に…お涙頂戴…といった捉えられ方をしてみられるとものすごく残念です。

私自身この映画をみたときにキャッチコピーが頭にありましたので違和感がものすごくありました。
映画には安易なキャッチコピーをつけるのではなく、正しいキャッチコピーをつけてほしいですね。
下手な誘導は映画の魅力を半減させます。
本映画自体は間違いなく名作ですので、先入観無しにみたいところでした。
まとめ

おばあちゃんに先立たれた大工のおじいちゃんと、シングルマザーで生活に苦労する3人家族のハートフルな物語と思いきやイギリスの生活に不満をもつ人々の物語でした。
・昼の仕事もなくギリギリで生活するシングルマザー
・工場の仕事から抜け出そうとシューズを売る若者
・売春をあっせんする人々
すべてのシーンに意味があると考えるとイギリスの若者たちの仕事への風刺もあるのでしょうね。
では最後に本記事を五七五でまとめたいと思います。(本ブログ恒例です。)
ハートフル
考えること
もっとある
ハートフルなだけではなく、考えさせられる作品ですね。
本記事を最後までお読みいただきありがとうございました。
他のまとめ五七五は以下にまとめていますよ。
記事:これまでのまとめ五七五
ではでは。